歯医者さんでつかう抗菌薬について
2023年11月25日
抗菌薬という言葉は聞いたことはありますか?
AMR臨床リファレンスセンターの2023年9月に一般の方を対象にして行った意識調査では、80%の方が聞いたことがあるというほど、認知されている薬です。しかし、20代に限ると、59%の人しか知っている人がおらず、約4割が知らないそうです。それほど薬のお世話にならない年代だとよくわからない薬ということになるのでしょう。
※参考サイト AMR臨床リファレンスセンター 抗菌薬意識調査レポート2023
https://amr.ncgm.go.jp/pdf/20231026_report.pdf
目次
抗菌薬とは
抗菌薬(抗生物質antibiotics)は細菌の発育を阻害したり、細菌を壊したりする物質のことで、化膿したときの細菌感染症に効果があります。化膿止めといって出される薬です。※色々と定義はありますが、今回は抗菌薬として話をします。
肺炎や中耳炎、溶連菌、上顎洞炎、ピロリ菌除菌治療などにも使われますので、一度は服用したことがあるかと思います。
歯科では、化膿したときによく使われるお薬です。
親知らずの周りの歯茎が腫れたり、根の先が腫れたり、歯周病が悪化して腫れたりしたときに使われます。
抗菌薬の種類
抗菌薬は、様々な種類があります。
細菌のどこに効果があるかで分類されます。
歯科では、ペニシリン系(商品名サワシリン・パセトシン等)、セフェム系(商品名フロモックス・メイアクト等)マクロライド系(商品名ジスロマック・ルリッド)が処方されることが多いです。
いわゆる飲み合わせがよくない薬というものが各抗菌薬に対してあります。
抗血栓薬、制酸剤、強心薬、気管支拡張剤、抗てんかん薬といったよく処方される薬と相性が良くない薬もあるため、事前にお薬を処方されている方には確認してから処方しています。
飲んでいる薬がある方は、必ず治療前に歯科医師、スタッフへお知らせください。
お薬手帳もしくはマイナンバーでお薬情報の提供を許可していただく形でも確認できます。
手帳ではなく、飲んでいるお薬を持ってきていただく場合は、できましたら、包装シートの状態でお持ちください。包装フィルムから出された薬は何の薬か調べることが難しくなります。
お薬には記号がついていますので、検索をかけて調べますが、こすれたりはがれたりして記号が判別できなくなる場合があるためです。
安全に治療を行うために、ご協力をお願いします。
包装シートについて
包装シートには誤飲防止のため、1つずつに切り離せないように作られています。可能な限り1つずつに切り離さずに保管するようしてください。
包装シートごと、飲んでしまう誤飲が報告されています。
※参考サイト 国民生活センター 薬の包装シートの誤飲に注意
https://www.kokusen.go.jp/mimamori/mj_mailmag/mj-shinsen385.html
特に抗菌薬は1日3回×3日分で出された場合、9錠と端数がでるため、1つ切り離した状態で薬が出る場合があります。高齢者、誤飲の可能性がある方については、十分注意をお願いします。
抗菌薬の副作用はどのようなものがありますか
抗菌薬の副作用は様々なものがあり、薬の種類によっても変わりますが、消化器系に起こるものが多いようです。よく起こるといっても1%~5%未満の頻度の薬が多いので、ほとんどの方は問題なく服用できます。
胃腸障害で起こるむかつき、胃もたれなどは、胃が空っぽの時に飲むと症状が出やすいので、何かお腹に入れてから服用することをお勧めします。
また、下痢も起こることがありますが、これは、病原体だけではなく、消化吸収を助ける腸内細菌に対しても抗菌薬が作用してしまうことで起こります。お腹が弱く心配な方は、あらかじめ乳酸菌製剤(ビオフェルミンなど)を一緒に処方しますので、お知らせください。
他にも副作用と言われる症状は様々です。滅多に起こらないという副作用もあります。
ほとんどの方には起こらなくても、薬には副作用が起こる可能性があるということを覚えておいていただきたいと思います。
副作用で飲み続けることが難しそうな場合は、無理せず、処方した歯科医師、薬剤師に相談してください。
また、抗菌剤は、腎臓または肝臓で代謝されるため、腎臓の機能が低下している方や、肝障害がある場合は、お薬の種類によっては負担になるため、抗菌薬の種類を考える必要があります。治療前にお知らせ下さい。
腎臓に病気が無くても、40歳以上は約10%ずつ腎機能が低下していき、80代では30代にくらべて50%腎機能が低下していると言われています。
お薬の代謝が低下することで、抗菌薬の血中濃度が高く維持されて、体内に薬成分が蓄積してしまい、副作用が出やすくなる場合がありますので、お体に変調がでたら無理せず、連絡ください。
心疾患をお持ちで、医師から歯科治療の際に注意するよう言われている方
感染性心内膜炎とは?
粘膜から体内に侵入した細菌等が心臓の心内膜、弁膜、血管内膜に感染する病気です。
稀な病気ですが、発症して適切な処置ができないと、多くの合併症を引き起こし、死に至ることがあるため、発症しないよう予防することが大切です。
歯科治療の内容によっては、感染を起こすリスクが高くなるため、治療前に抗菌薬を飲むことを推奨されています。
感染性心内膜炎になりやすく、重症化しやすい高リスクとして、人工弁置換を受けたことがある方、感染性心内膜炎になったことがある方、複雑性チアノーゼ性先天性心疾患、体循環系と肺循環系の短絡増設術(シャント)を受けた方が当てはまります。
必ずしも重篤にはならないけれど、心内膜炎の可能性が高い方として、ほとんどの先天性心疾患、後天性の弁膜症、閉そく性肥大型心筋症、弁逆流を伴う僧帽弁逸脱の方が当てはまります。
これらの疾患をお持ちの方には、治療前にお薬の服用をお願いしています。
必ず抗菌薬を飲んでから治療を受けてください。
処置前に服用を忘れた場合は、治療ができません。
※参考サイト 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_nakatani_h.pdf
抗菌薬をつかうときに守って欲しいこと
1.抗菌薬はきちんと最後までのみましょう。
症状がよくなったら、もう、お薬は飲まなくてもいいよね!という気持ち、よくわかります。冒頭で参照した意識調査でも39.8%の人が、症状が治ったら、抗菌薬は早くやめる方がいいと思っているようです。
しかし、抗菌薬は途中でやめると症状がぶり返してしまうことがあり、治るまでにかえって時間がかかってしまうこともあります。
指示された通りに服用しましょう。
2.抗菌薬をとっておいて、後で使うのはやめましょう。
同じように飲んで、同じように今回も治るとは限りません。
3.自分以外の人から抗菌薬をもらったり、あげたりすることはやめましょう。
もしかしたら、ご自身には合わない薬かもしれませんし、他に飲んでいるお薬と相性が良くないかもしれません。
ご家族からであっても、抗菌薬もらうのはやめましょう。
これらのことは、薬剤耐性菌を増やさないためにも大切です。
薬剤耐性菌を増やさないために
薬剤耐性菌、どこかで聞いたことがあるかもしれません。
細菌が薬に対して抵抗力を持つことがあり、文字通り、薬が効かない細菌になることです。
抗菌薬が入ってきにくい状態にするとか、DNA自体を変異させて抗菌薬の効果を無くすなど細菌は自分が生き残るために様々な変化をして抗菌薬に抵抗します。
繰り返し同じ抗菌薬を中途半端に使用すると、薬剤耐性菌を作り出してしまう可能性が高まります。
歯周病菌細菌でも薬剤耐性菌は報告されております。
日本でも、2016年から薬剤耐性(AMR :antimicrobial resistance)対策アクションプランが策定され、薬剤耐性問題への取り組みが始まりました。
世界では薬剤耐性によって2019年におよそ127万人が死亡しており、このまま、なにも対策をしないと、30年後には1000万人が死亡すると予想されていて、がんの死亡者数を上回るそうです。
11月は薬剤耐性(AMR)対策推進月間です。
※参考サイト AMR臨床リファレンスセンター
少し腫れたからと軽い症状でやたらと抗菌薬を飲んでいたら、耐性菌を作り出してしまうことがあるかもしれません。
抗菌薬は全身に作用しますので、体のどこでそのような菌ができるかはわかりません。
抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が増えると、今までは治療をすれば回復できた感染症でも、抗菌薬が効かなくなるために重症化してしまう可能性が高まります。
そのため、抗菌薬は、本当に必要な時に必要な量だけお出しするように心がけております。
今日は化膿止めの薬はでないのですか?心配なので、お薬出して欲しいのですが・・・と言われるのですが、飲まずに治りそうなのであれば、ご説明してなるべく出さないようにしております。
抜歯の後も、抗菌薬を出さないことがあります。
必要がないので出さないということです。心配なさらないでください。
また、次にくるのが先になりそうので、多めにお薬を下さいといわれることもありますが、「JAID/JSC 感染症治療ガイドライン」では、歯の感染症に対する抗菌薬効果判定の目安は 3日ですので、効果があるかどうかわからないお薬を長く処方することは望ましくありません。
抗菌薬を出すと、こちらもラクではあるのですが、後々耐性菌ができたら大変ですので、適切使用をするようにしております。
もちろん、個々のケースにより処方は変わりますので、ご心配なことがあれば、当院スタッフ、歯科医師にご相談ください。