永久歯をぶつけた!この状態はどうしたらいいの?受診の目安は?
2024年04月05日
大人の歯をぶつけてしまった!
さらにそれが欠けてしまったら、ショックを受けます。
今後どうなるのだろうと不安になりますよね。
学童の約25%、大人の33%が永久歯に外傷を受け、その多くは19歳までに生じると言われています。
永久歯の外傷は7~9歳が多く、男子が女子の2倍多いと言われています。
上の前歯をぶつけることが多く、原因はスポーツ、遊んでいるとき、交通事故などです。
目次
歯をぶつけたら確認して欲しいこと
まずは、声掛けに対して適切な反応が返ってくるかどうか、頭を打っていないか、他の打撲が無いかどうか、鼻や耳周囲の出血、目の周囲に出血が無いかを確認してください。
これらの出血や、顔色が悪い、目の動きに異常がある、失神や嘔吐の症状があれば、まずはお医者さん、救急医療機関への受診が先になります。
また、口を開け閉めさせてうまく開け閉めができない、明らかに歯並びがおかしい場合は、顎が骨折している可能性があるため、総合病院の口腔外科への受診が必要となります。
上記をすばやく確認し、問題が無ければ、歯を確認します。
ぶらついた歯がある場合は、飲みこまないように注意してください。
口の中から出血があれば、清潔なガーゼで出血部位を抑えて圧迫すると血はとまるのですが、急にぐっと抑えると痛む場合があるため、はじめはそっと触れて様子を見ながら抑えていきましょう。
なるべく血液を飲み込まないように吐き出させてください。
この時、唾液に血液が混じるため、出血が多いと誤解しやすいのですが、実際は唾液で量が増えて見えているだけということもあります。
本人が血の混じった唾液をみて、びっくりしたり、不安になることもありますので、全部が血ではないことを教えてあげましょう。
歯ぐきから出血がある場合、歯がずれたり、抜けたりしている場合は早急に歯医者さんを受診しましょう。
それ以外でも、受傷後はなるべく早く歯医者さんを受診するようにします。
受診時は、受傷状況がわかる成人が付きそうことが望ましいです。
歯医者さんに受診の際に聞かれること
いつ、どこで、どのような状況で受傷したか、歯の症状以外にも、確認されることがあります。
特に、かかりつけではない歯医者さんを受診した際は、今まで大きな病気が無いか、アレルギーはないか、今まで歯科で麻酔をしたことがあるかどうか、喘息はあるかなどの確認から始まります。
安全に処置を行うために必要なことですので、わかる限りお知らせください。
その後で、歯の状態の検査、現状の写真の記録、レントゲン検査を行います。
通常の小さな範囲を撮影するレントゲン検査だけでは、折れた部位がわかりにくい場合は、歯科用CTで詳しく状態を確認することもあります。
歯をぶつけた際の診断と分類
歯の状態によって、治療法も変わってきます。
必ずしもではありませんが、軽い方から順に
歯にヒビが入った(亀裂)
歯が欠けた(破折)
歯が揺れる(動揺・歯根破折・亜脱臼)
歯の位置がずれた、めり込んだ(転位・陥入)
歯が抜けた(脱落)
となります。
歯にヒビが入った
まずは安静にしてください。
ぶつかった歯で食事をしようとしない方がいいでしょう。
早めに歯医者さんを受診しましょう。
歯がしみる場合は歯にコーティングをしてしみないようにします。
1か月後、3か月後で経過をみます。
1年間は変化が出てこないか経過をみるといいでしょう。
歯が欠けた
歯や歯ぐきが砂で汚れていたら、水で軽くうがいをさせます。
少し欠けた程度であれば、当日の受診である必要はありませんが、大きく歯が欠けてしまった場合は、早く受診をしましょう。
条件によっては、接着できる可能性があるため、欠けた歯はできるようであれば回収して、歯科受診の際に持っていきましょう。
欠けた部分の歯は乾燥を避けるため、水中に保存、冷蔵庫にいれておきましょう。
欠けた歯を無くした場合は、白い詰め物で歯の欠けた部分を補う治療をします。
受診までの経過時間が長いと、感染の可能性が高くなり、予後に影響してしまいます。
生えて間もない永久歯(幼若永久歯)の場合、治癒力が見込めるため、できる限り歯と歯の神経を保存する処置を試みます。
神経が出ている場合は24時間以内に受診すると歯髄保存の可能性があります。
歯の神経が大きく出ていて、受傷後時間が経過しているような場合は、神経の炎症を起こしていたり、すでに神経の変性が進んでいたりしますので、神経を取り除く処置をすることになります。
神経を取り除いた場合は、根の成長状態にもよりますが、1年以上経過を確認する場合があります。
歯が揺れる
歯や歯ぐきが砂で汚れていたら、水で軽くうがいをさせます。
歯がグラグラ揺れたり、周りの歯ぐきから出血があるときは、歯を支える周りの部分のダメージを受けた場合が多いです。
受傷した歯をなるべく触らないように注意しましょう。
なるべく早めに歯医者さんを受診した方がいい状態です。
軽度の揺れであれば、そのまま安静にして回復を待つこともありますが、大きく揺れる場合は、両隣の歯とつないで固定します。
歯だけの揺れの場合は、1~2週間ほど固定をします。
頻度は少ないのですが、歯が揺れる原因に、歯の根の部分で折れている(歯根破折)ということがあります。
歯の根から歯冠に向けて大きく斜めに折れている場合は、抜歯になる可能性が高くなります。
しかし、歯の根が折れた場合でも、治ってくることもありますので、1~2か月固定をして、長期にわたり経過を見ていきます。
残念ながら予後不良という場合もあります。
良くない状態は1年以内に出てくることが多いので、少なくとも1年は経過観察が必要です。
歯の位置がずれた、めり込んだ
なるべく早く歯を元の位置に戻して固定をします。固定は約1か月ほどです。
ずれが大きいほど予後がよくありません。
生えたばかりの永久歯で、めり込んだ量が2㎜以内の場合は、予後は良好と言われます。
自然に元に生えてくることも期待できます。
3週間たって自然に生えそうもないときは、歯を引っ張り上げて固定します。
2㎜以上めり込んだ場合は、元の位置に戻す場合と、段階的に戻す場合があります。
歯が抜けた
歯が抜けてからの時間が短いほど、歯が元通りに定着する可能性が高くなりますので、早く歯医者さんを受診しましょう。
抜けた歯は歯医者さんに持参してください。
抜けた歯を拾う際には、歯の根ではなく、歯の頭の部分を持ちましょう。
根の部分をベタベタ触るのはやめましょう。
根の部分がどれだけいい状態かで歯を元に戻すことができるか決まります。
よく、牛乳に歯をつけると良いと言いますが、学校等では、歯牙保存液があるかもしれませんので、そちらにつけてもらう方がいいでしょう。
牛乳につける際は、牛乳アレルギーが無いか確認してからにしましょう。
ティッシュで包むのはやめましょう。
包むなら、ラップをお勧めします。
包んだ後も、歯の根の部分に負担がかからないような状態で歯医者さんにもってきてください。押しつぶされるような状態では歯の根の周りの細胞(歯根膜細胞)がダメージを受けてしまい、歯を戻せなくなります。
保存液として望ましい順と保存可能時間
1.細胞用培地(HBSS:Hank’s balanced salt solution)24時間以上
2.歯牙保存液・24時間
3.冷たい牛乳(低脂肪乳、ロングライフ牛乳除く)12時間程度
4.ラップで覆う 1時間
5.生理食塩水中 1時間
歯が汚れているからとゴシゴシこするのは絶対にやめましょう。
歯根膜細胞がダメージを受け、歯を戻せなくなります。
汚れがひどくなければそのまま保存で大丈夫です。
汚れていても、水道水で洗わずに、そのまま液にいれてください。
どうしても洗いたい場合は、歯の保存液や牛乳で軽く洗うようにしてください。
保存できるものが何も無いという時は、歯が抜けたあとの歯ぐきの穴に戻せるようなら戻してみるか、口の中で飲み込まないよう、歯に触れないよう、舌の下に入れたり、頬の内側に入れたりするかで一時的に保存して、湿潤を保ちましょう。
抜けた歯がお口の外で、30分~1時間乾燥状態になると、歯根膜細胞の生存が期待できなくなります。
口の中に保存する際に抵抗あるくらい砂がついている場合は、5秒程度、軽く水道水で流して下さい。長く水道水で洗うと歯根膜細胞がダメージをうけます。
※お口の中で歯を保つのは、年齢的に高学年以上でないと難しいと思います。
歯根膜細胞がよくない状態だと、歯を戻して一時的にくっついたようになったとしても、最終的には歯が抜けてしまいます。
歯根膜細胞が生存していないと、骨性癒着といって、歯と骨が直接くっつきすぎてしまい、成長の妨げになることもあります。
歯をなるべく触らず速やかに保存することが大切です。
運よく、抜けた歯を戻せた場合は、その後2週間ほど固定をします。
すでに歯の根が完成している歯の場合は、固定期間中の7日~10日に根の治療が必要となります。
タイミングよく治療することが大切となります。
経過は3週、6週、3か月、6か月、1年、その後は1年ごとに4~5年もの間の経過観察が必要となります。
歯が無くなってしまったときは
抜けた歯が無くなってしまったり、元に戻すことができなかったりということもあります。
上の前歯をぶつけることが多いので、見た目が気になってきます。
永久歯が無くなった場合は、通常、入れ歯、ブリッジ、インプラントといった治療をします。
しかし、まだ永久歯に全部生え変わっていない、これから成長期という年齢であれば、前歯の位置も変化していくため、調節しやすい入れ歯タイプの装置を使います。
成長が止まったら、改めて治療を進めていきます。
家庭でのケア方法
術後は安静第一にしましょう。
数日は痛みがでますが、安静にしていれば、痛みは徐々に無くなってきます。
痛み止めをうまく利用して過ごすようにしてください。
※もし、痛みが増すようであれば、受診した歯医者さんに連絡しましょう。
十分な休養と栄養補給が大切ですので、噛まずに食べることができる食事をとって回復に努めてください。
スポーツドリンク、ジュース、ガム、飴、カレーなど甘いものや、刺激のある食べ物は控えましょう。
歯をぶつけた後、37度台の熱が出ることがありますが、それ以上高くなる場合は、医科を受診してください。
傷の部位は清潔を保つ必要がありますので、うがいや、うがい薬を使用したうがいや、傷やぶつけた歯の周辺を手でほぐして柔らかくした綿棒にうがい薬などを付けてぬぐうなどして清潔を保つようにしましょう。
食後や寝る前は、うがい薬を付けた歯ブラシで歯磨きを丁寧にします。
もし、歯を固定していた場合は、歯間ブラシやタフトブラシで丁寧に磨きます。
1週間くらいは続けてください。
歯をぶつけた後、歯の色が変わってきた
大きく歯が欠けたりしていなくても、受傷して約3週間~1か月後に、歯の色が変色してくることがあります。
これはぶつかったことで、歯の神経がダメージを受けて悪くなっていくときに起こります。
しかし、一度変色が起こっても、そこから神経が回復する場合もありますので、経過を見る必要があります。
明らかに神経の回復が見込めない場合は根の治療を行います。
歯の外傷を予防するには?
急な事故は防ぐことができませんが、スポーツ時の歯やお口のケガはマウスガードで防いだり、軽くしたりすることができます。
コンタクトスポーツ(選手間同士で接触があるスポーツ)では特に不可欠なものです。
自分だけではなく、ぶつかった際相手を自分の歯で傷つけることも防いでくれます。
お口のケガは試合より練習中に多く発生しますので、練習中からマウスガードは使用するようにしましょう。
また、虫歯になっている歯は弱くなっているので、折れやすくなります。
虫歯予防も大切です。
歯並びもいわゆる出っ歯の場合、ぶつけやすいです。
歯並びをよくするような生活習慣と治療も外傷予防になるかもしれません。
最後に
歯をぶつけてしまったら、なるべく早めに対象の医療機関の受診をお願いします。
歯のみの症状であれば、当院でも対応しております。まずはお電話でご連絡ください。
※症状によっては病院の歯科口腔外科の受診をお勧めする場合もあります。
処置後は、一定期間経過して初めてでてくる症状もあるため、経過を長期にわたってみていく必要があります。
歯の外傷は、長く付き合っていく必要があることをご理解ください。
※参考サイト 歯とお口のことなら何でもわかるテーマパーク 歯の外傷
https://www.jda.or.jp/park/lose/gaisyou_02.html
日本外傷歯学会 歯の外傷ガイドライン