MRONJ(薬剤関連顎骨壊死)とは?

2024年10月31日

MRONJ(Medication-related osteonecrosis of the jaw)をご存じでしょうか。

特定の薬を服用していると、薬剤の副作用として顎の骨が壊死する病気です。

薬剤関連顎骨壊死といいます。

2003年にビスフォスフォネート製剤に関連して起こる顎骨壊死が初めて報告され、「ビスフォスフォネート系薬剤関連顎骨壊死」といわれるようになりました。それ以外の薬、デノスマブ(がん治療につかわれる)、血管新生抑制薬という様々な薬によっても、顎骨壊死が報告されたことから、「骨吸収抑制薬関連顎骨壊死」という名称を経て、現在は、「薬剤関連顎骨壊死」といわれるようになりました。

MRONJの症状

初期の段階では、痛みや腫れなど、他の口腔内の病気と似ているため、気付かれにくいことがあります。

西宮北口 歯医者 MRONJ

歯ぐきから骨が見える状態

進行すると、痛み、不快なにおい、膿が出る、顎の骨がむき出しになるといった症状を伴って、傷が治らないということが起こります。

放置すると、食事や会話に支障がでることもありますので、歯科治療後に、上記の症状が1カ月以上続くようなことがあれば歯医者さんにご相談ください。

検査をして、以下の3項目を満たした場合に、MRONJと診断されます。

1.ビスフォスフォネート製剤 や デノスマブ 製剤による治療歴がある。または血管新生阻害薬や免疫調整薬との併用歴がある。

2.8 週間以上持続して、口腔・顎・顔面領域に骨の露出を認める。または口腔内、あるいは口腔外から骨を触 知できる瘻孔を 8 週間以上認める。

3.原則として、顎骨への放射線照射歴がないこと。また顎骨病変が原発性がんや顎骨へのがん転移でないこと。

MRONJが起こる頻度はそれほど高くはありません。

日本のレセプトデータを基にすると、MRONJのは骨粗鬆症患者で0.02%くらいの発生頻度です。※薬の低用量投与の場合

ほとんどの場合起こらないので、過度な心配はいらないのですが、悪化させてしまうと、一般の歯科医院では対応できず、大きな病院へ転院することになりますので、予防や早期発見が大切です。

MRONJの原因

MRONJの詳しい原因は完全には解明されていません。

顎骨壊死は色々な薬で引き起こされますが、主に骨吸収抑制薬(antiresorptive agent:ARA)といわれています。

特に高用量が低用量よりも発症頻度が高く、長期投与に伴い発生リスクが上がると言われています。また、チロシンキナーゼ阻害薬、、グルココルチコイド、mTOR 阻害薬、メトトレキサートについては、 それぞれ単独で、あるいは ARA との併用で発症リスクが増加すると報告されています。

また、口腔衛生状態の不良や歯周病、根の先にたまった膿(根尖病巣)、顎骨骨髄炎、インプラント周囲炎(インプラントの歯周病)などの感染を伴う疾患は、MRONJのリスクとなることが報告されています。

今までは、抜歯がMRONJを引き起こすとされていたため、抜歯をする際にはお薬を2~3カ月休薬してから抜歯する方がいいとされていました。

そのため、抜歯すべき歯がいつまでも抜歯できないということも起こっていました。

抜歯となるような歯は、もともと状態が悪く、顎の骨に細菌感染を伴っていることがほとんどです。

近年、抜歯すること自体がMRONJ発症の原因とはならないとわかってきました。

2023年に発表された顎骨壊死検討委員会のポジションペーパーでは、抜歯したから発症するのではなく、すでに抜歯の前に潜在的にMRONJ を発症していると考えられ、 抜歯はMRONJ が顕在化する端緒となると注意喚起しています。

※参考サイト

関連顎骨壊死の病態と管理: 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023(PP2023)

https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2023/0217_1.pdf

他にも、合わない入れ歯によってできた傷から顎骨壊死になったり、骨隆起というあごの出っ張りの部分も粘膜が薄く顎骨壊死が起きやすいと言われています。

全身的な因子としては、糖尿病や自己免疫疾患、人工透析中の方は、MRONJ の発症リスクが増加すると言われています。

また、骨系統疾患(骨軟化症、ビタミンD欠乏、骨パジェット病)は骨のリモデリングが 阻害されるため、骨修飾薬(BMA:ビスフォスフォネート製剤及びデノスマブ製剤など)を使用することにより、その影響はさらに高まるため注意が必要とされています。

生活習慣としては、喫煙、飲酒、肥満も発症リスクを増大させます。

遺伝的要因として、数種類の遺伝子がMRONJ 発症に関わっていると報告されています。

(血管新生や骨代謝回転を制御している遺伝子である VEGF や RBMS3、長寿遺伝子と言われる SIRT1等)

このようにリスクとして考えられる要因は多岐にわたっています。

MRONJの治療

治療は、症状の進行具合や患者さんの状態によって異なります。

一般的には、以下の治療が行われます。

1.保存的治療

抗菌性洗口液の使用:ポビドンヨード含嗽剤、塩化ベンゼトニウム含嗽剤(ネオステリングリーンうがい液)

洗浄・局所的抗菌薬の注入など。

感染を伴った場合は、抗菌薬の全身投与

口内保清、患者教育指導など

2.外科的治療

壊死骨のみを摘出する

壊死骨切除に加えて周囲骨を一定量削除する、あるいは区域切除

症状が軽いほど、保存的治療が行われ、症状が重いほど、外科的処置となります。

感染を伴ってくると外科的治療の方が治癒率が高いため、全身状態にもよりますが、外科的治療が優先されるようになります。

 MRONJの予防

MRONJを完全に防ぐことは難しいと考えられますが、以下のことに注意することで、発症のリスクを減らすことができます。

お口の中に感染源があると、リスクが上がります。

そのため、定期的な歯科検診で歯周病や虫歯などのお口のトラブルを早期に発見し、治療することで発症リスクを下げることができます。

また、日常的なケアも大切です。

より理想的なのは、お薬を使い始める前に、お口の中の虫歯や歯周病を治療しておくことです。

原則として骨粗鬆症治療を開始する予定のある方は全例が歯科スクリーニングの対象といわれています。

お薬を飲み始める前と服薬中に適切な口腔管理をすることで、細菌感染を防ぎ、MRONJを発症のリスクを抑えることがきます。

お薬を飲む前に歯科受診をすることをお勧めします。

いつ骨吸収抑制薬を使用し始めるかはわかりませんから、日頃からお口のケアをしておくと安心です。

骨吸収抑制薬投与中の歯科治療

1.抜歯はできるの?

低用量ARAのとき

PP2023では、先に述べたように、「原則として抜歯にARA(骨吸収抑制薬)を休薬しないことを提案する」としています

低用量ARAでは、休薬を前提としない歯科治療の継続が望まれるとされています。

ARA 使用中は抜歯した後の治りが遅くなる可能性があるため、しっかり治ってきているか確認が必要になります。

高用量ARAのとき

「がんの骨転移などで高用量 ARA を投与中の方は、慎重に抜歯の適否を判断し、まずは他に回避できる治療法があるか検討する必要がある」とされています。

しかし、根尖病変・重度歯周病・顎骨骨髄炎といった顎骨に明らかな感染源が存在する場合は、 抜歯を前向きに検討すべきとの意見があるもあることから、治療のメリットと発症リスクを考えて、治療の適否を検討することになります。

2.インプラント治療はできるの?

低用量ARAのとき

投与中の患者さんにインプラントは行ってならないという根拠は、現時点でないとしています。しかし、低用量 ARA に加え、 他の骨修飾薬(BMA)の投与歴、糖尿病や自己免疫疾患、人工透析中の方など、MRONJ のリスク因子がある場合は、 決して無理な治療計画を立てるべきでないと言われています。インプラント以外の代替療法を検討すべきとされていますので、他に疾患がある方は慎重に検討された方がいいでしょう。

高用量ARAのとき

歯科インプラント埋入手術については、インプラント以外の他の代替治療があるので、 ARA 投与中の患者には行うべ きではないとされています。

まとめ

MRONJは、薬剤の副作用として起こる病気ですが、適切な治療と予防を行うことで、重症化を防ぐことができます。

もし、MRONJについてご心配なことがあれば、お気軽に当院の歯科医にご相談ください。